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Wednesday January 18 2017 category:

白と黒


白と黒 (角川文庫)

白と黒 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 1974/05/21
  • メディア: 文庫


これは東京?の大きな団地を舞台にした話です。
いや、東京じゃないのかも。
東京の(というか、全世界的に)地理とか地形とか、鉄道沿線とかに疎い私は、冒頭でS・Y先生が横浜球場を遠く眺める草っぱらがどこなのかさっぱりわかっていません(;'∀')
横溝先生が成城にお住まいだった…というのは知っているので、多分そのあたりなんだろうな?とは想像つくんですけど、渋谷からバスで20分ってどこなの?
などと疑問が頭の中に浮かぶんですけど、とにかく幼いころから地理・地図が苦手な私は調べることすらしていません(笑)

地図、紙に描かれたものならかろうじて読めるんですけど、Googlemapとかはいくら眺めても、知っている場所からつながった情報(ルート)として位置関係を把握できないのです…
なので、うちの車には車載ナビのほかに紙の地図が常備されています。
ブラウザのマップを一瞥して、位置関係を一瞬で把握する能力すごい…私もほしい…無理だろうけど(笑)
なんで紙だとなんとかなるのに、ブラウザだとだめなんだろうな…?
脳の作りがオールドタイプだから…?
(´・ω・`)


話がだいぶずれました…
『白と黒』ですが、冒頭、S・Y先生が愛犬カピを連れて散歩に出かけ、横浜球場の方角を眺め、その方向に新しい大きな団地ができていることに驚くのです。
その語り口が、え?これ、金田一シリーズだよね?横溝正史だよね?ってくらい、かるーくなっています。
え?なんでこんなことに…?と思いつつ読み進めていくとプロローグが終わり、やっぱり軽妙な(でもなんか違和感をおぼえる)語り口のまま、耕助が登場して、問題の団地の内部へ入っていくのです。
なんというか、全体がふわふわした印象。
「顔のない殺人(灼熱のタールで顔というか上半身を埋められた)」が起こっても、妙に影が薄いのです。
殺人という事件なのに、人間の闇みたいのがとても希薄な感じ。
そんな感じのまま、団地の内部が(場所という意味でも、そこに暮らす人間という意味でも)語られていきます。

数回読み直して気づいたのですけど、この「団地に住む人々」というのが、背後になんの因習も因縁も持たないのです。
いや、持ってはいるのですが、今に暮らす私が同じ集合住宅(あるいは町内)に住む人に感じる程度、若干それより濃い程度のものでしかない。
まさに現代(というには風俗が古いですけど)が舞台の、金田一耕助シリーズなのです。
なので、語り口が軽くても、闇が薄くても、陰惨さが減じられていても(いると感じられても)しょうがないかなー!と思います。

どんなに陰惨な事件が起ころうと、むろん心が痛んだり、犯人を憎く思ったり、社会に憤りを感じたりはしますけれども、自分事ではないのです。
良くも悪くも、当事者意識はなかなかおこらないものです…
そんな現代の感覚が、もうすでに、昭和35年という時代にあった、というところに驚きます。
(もっと昔から、都会にはあったのかもしれませんけども)

いや、だって、NHKの朝の連続テレビ小説(いわゆる朝ドラ)とか見てると、わりと戦後~とか舞台で、東京とか大阪とかそういう都市部でも、まだ全然人と人とのつながりが濃いというか、大事にされてるじゃないですか。
なので、自分がものごころつくようになったころ、昭和の終わりぐらいまでは、人と人との関係が密だったんだと、なんとなくぼんやり信じ込んでいたのですよね。
(田舎に住んでいたせいもあると思いますけど)

そういう人づきあいが密だったところももちろんあるんだろうけれども、そうじゃないところもあったんだ!というのが、今回個人的に大発見でした(笑)
(普段日本が舞台の小説を読まないのがバレバレ…)
巨大団地とともに、そういう希薄な当事者意識が生まれたのか、それとももっと昔からあったのか…どうなんでしょう。
隣に住んでいる人の名字くらいは知っていて、顔を合わせれば挨拶はするけれども、いったい普段なにしているのかとか、どこで働いてるのかとか、まったく知らないし、知りたいとも思わないし、もし逆にそれとなく訊かれたりもすれば、『なんだか怖っ』って思ったりします。
そういうのって、いったいどこから…いつぐらいから出てきた感情なんでしょうね?


話としては、ずーっとふわふわしたまま進んでいきます。
ふわふわというと語弊がありますが、なんといったらしっくりくるのかな…
容疑者も二転三転するのですが、どの人もなんというか…殺人者にはなりえない感じというか…
ああ、こいつならまかり間違えば人も殺しそう(なんという言い草)…っていう重さ?が、全然ないんですよね。
なので、結末は(というか犯人と動機は)なかなか衝撃でした。
なるほどーーー!というか、そうきたかー!というか。
この妙に重さを感じない物語にぴったりの結末でした。

個人的にひとつだけ気になった点を挙げるなら、もうちょっとエノが活躍してもよかったと思うの!
そこかなー。



次は、『守り人シリーズ』の文庫新刊を買ってきたので、それを読む予定。
炎路を行く者、おもしろそう。


タグ:Ringo Books Mystery

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